東京国際映画祭で1回、翌週に主要メンバーの舞台挨拶付き上映でもう1回。この短期間で2回観ても飽きないどころか、2回目なんてもうどのシーン観てても泣きそうなくらい愛おしくて、胸がいっぱいです。
今泉力哉監督は永遠の推し
まず前提として、私は2013年の東京国際映画祭で『サッドティー』を観たときから今泉監督の熱烈なファンです。なので監督のお話が聞ける機会にはなるべく足を運ぶようにしていて、今回も映画祭のQ&Aセッションにて、いくつか印象深いエピソードがありました。
浮気や不倫ってそんなに悪いこと?
もちろん悪いことなんですよ。それは分かっているんですよ。でも、そこに至った人の気持ちって、私にはとても価値があるもののように思えて。だって、世間的にこれだけダメと言われていてもなお、その相手を好きになってしまったわけでしょ。そこまで強い気持ちで人を想えるって純粋に尊いし、すべてを一律に「悪だ」とは言えないよなぁと思うんです。
今回のQ&Aで初めて知ったのですが、今泉監督もそれに近しいお考えをお持ちのようで、個人的にいろんなことが腹落ちしました。監督の映画といつも分かり合えるような気分になるのは、きっとそういう側面もあるんだろうなぁって。
世間的な悪をそれほど悪と思わない人がいてもいい
浮気や不倫に限った話じゃありません。SNSでの炎上とかもね、みんな視野と心が狭いよなぁって思ってしまう。世間的な「正解」があるものに対しても、それ以外の意見を持つ人がいたって良くないですか? その意見が人に迷惑をかけるものであっても、そもそも生きることって迷惑のかけ合いみたいなもんじゃないですか。何が迷惑かも人によって違うわけだし、そこはある程度お互いさまで丸くおさめていったほうが、結果みんなが生きやすいんじゃないかな~と思ったりもするんですよね。
天気さえ良ければ窓から光は入ってくる
話がそれましたがもう1つ。同じQ&Aの回で、監督がタイトルの『窓辺にて』について質問されたとき、とても素敵なことをおっしゃっていたんです。細かい言い回しは忘れたので要約すると、「この映画は明るい話ではないけれど、その場にいる人の気持ちや状況に関係なく、天気さえ良ければ窓から光は入ってくる」
このお話がとても印象深くて。それってつまり人生ですよね。自分で窓を開けたり閉めたり、カーテンをかけたり、ある程度光の入り具合を調節することは可能だけど、太陽の出ている時間であれば、いつでも光はそこにあるんです。
『窓辺にて』全体を通して、「動」というよりは「静」の印象が強く、淡々とストーリーが進んでいくように見えるのは、そういう窓辺と光の関係性の象徴のように思えました。
チーズケーキのほうがパフェ
肝心の映画本編の中にも、刺さったシーンがごろごろ。1つ目は、主人公の茂巳(稲垣吾郎)と高校生作家の留亜(玉城ティナ)が喫茶店でフルーツパフェを食べているシーン。パフェの語源はフランス語でパーフェクトだという話をしながら、「でもパフェって全然完璧じゃない」と2人の意見が一致する。「どっちかっていうと、チーズケーキのほうがパフェ」というセリフには思わず笑ってしまいました。
後悔も含めてパフェが好き
ここでさらに留亜が良いこと言うんですよね。パフェは完璧ではないけど、食べたあとの胃がもたれる感じとか、食べなきゃよかった~っていう後悔も含めてパフェが好きだと。言葉の定義とは違うけど、そういう酸いも甘いも含まれているもののほうが個人的には「完璧」な感じがする。
茂巳が紗衣の母親の写真を撮る習慣の良さがすごい
こんなに良さしかないシーンある!?っていうくらい、これはやられたな~って思いました。笑 しかもフィルムカメラだしね。
実際に写真を撮っているシーンでは、一緒にケーキを食べ始めたと思ったらいきなり撮り始めるので観ていて「?」が残るのだけど、後々離婚が決まったあと、紗衣(中村ゆり)が実家を訪れたときに眺めているフォトブックのカットで、それが習慣だったことが分かる。素敵すぎて震えますね。
留亜の彼氏の良い人感もすごい
最初に留亜の彼氏が出てきたとき、正直なんでこんなにバカっぽい子と付き合ってるんだろう、話のレベル合うのかな?と思ってしまったのだけど、話が進めば進むほどあまりにも良い子なんですよね。笑
悪ぶった見た目だけどめちゃくちゃピュアだし、ラストシーンでこの彼氏を登場させた今泉監督の采配は本当にもうさすがとしか言いようがないです。ドラえもんのポケットみたいなのがついた服もなんだあれ。反則級に可愛い。
悩むことは贅沢?小さな一大事に寄り添う映画
舞台挨拶の最後、今泉監督が「悩みには大小ってないと思うんですよね」とおっしゃっていて。同時に「(他の映画ではあまり取り上げない)小さなことにスポットライトを当てたい」というようなこともおっしゃっていた。
私たち1人1人の悩みなんて、地球規模で見ればあまりに小さいものばかりだと思うけど、1人1人の中では一大事なわけで。そういう遠近感のピントをどこに合わせれば良いのか不安定な日々の中で、ちゃんと自分に寄り添ってくれると感じさせてくれるものが今泉監督の映画にはあります。
留亜の書いた小説『ラ・フランス』の中にも「悩むことは贅沢」というような表現が出てきて、確かにそれはそうだなぁとしみじみ。
あとは小説の引用がモノローグとしてちょこちょこ出てくるからというだけではなく、『窓辺にて』全体を通してとても文学的な香りのする映画でしたね。茂巳の温度感の低さやナイーブさも、村上春樹の小説の主人公を彷彿とさせるものがあった。
オリジナルの主題歌にも注目
エンドロールで流れる主題歌がまた最高なんだこれが。朴訥としたサウンドながらメロディーがエモくて、耳に残る。しばらくはあの主題歌をBGMに人生を生きる。