ムロツヨシって味のある俳優さんだよねぇ。前から思っていたけど、今回の作品で改めてそう思った。刑事としての硬派で厳しい眼差し、男性の同僚を相手にするときのちょっと粗野な振る舞い、それに対して妹の真由子(平岩紙)に話しかける声の優しすぎる響きに胸をギュッとつかまれる。
確かに事件が起きるドラマではあるんだけど、事件そのものではなくそれを取り巻く人間の心模様を繊細に描いているドラマだと感じた。
抑圧された展開の中で、心の動きが浮かび上がる
何もない田舎の1本道、大雨の中で、小学校5年生の石岡葵ちゃん(大島美優)が突然姿を消してしまう。両親が離婚調停中だったこともあり、当初は両親の不仲を苦にした家出か、事故か、それとも何者かによる誘拐か――手がかりがほとんどなく、可能性を絞りきれないことで初動捜査もピントが合わない。
時間ばかりがどんどん過ぎていく展開。1日、2日、1ヶ月、3ヶ月、そして1年。容疑者も浮かび上がるものの、結局犯人ではないという展開が繰り返され、見ているこちらもだんだん息が詰まってくる。
そんな一進一退の捜査の中、刑事の奈良(ムロツヨシ)がここまで葵ちゃんの事件に入れ込む理由の1つとなっている妹の真由子の過去の事件の回想や、被害者家族であるはずなのにマスコミ・世間から責められる理不尽さなど、描かれるエピソード1つ1つもあまり明るいものではない。
被害者家族と担当刑事、ゆっくり紡がれていく絆
でも、全体的にアンダーなトーンだからこそ、人の心の揺らぎや温もりに、それがかすかなものであっても自然とスポットライトがあたる。葵ちゃんの父親(佐藤隆太)と担当刑事の奈良の交流もその1つで、最初はまったく腹の底の読めない感じを醸し出している奈良だったけど、ストーリーが進むにつれて、事件そのものではなく葵ちゃんの父親自身に心を添わせていく様子が伺える。
家族側も、真摯な奈良の振る舞いにどんどん信頼を深めている印象が伝わってくるし、葵ちゃんの失踪という悲しいきっかけから繋がったご縁ではあるけど、人と人との絆って見ていてやっぱり胸が熱くなるものだなと思った。
葵ちゃんはもう見つからないんだと思ってた
事件から1年以上が経った段階で、だんだん「このドラマってどういうふうに終わるんだろう?」と結末が気になってきたけど、最終話直前あたりまで、私はてっきり葵ちゃんはもう見つからないまま終わるんだろうと思ってたの。なんかそのほうがリアルというか、現実には分かりやすいハッピーエンドもバッドエンドもなく、葵ちゃんのいない日々がただただ日常として続いていく…という結末のほうが、このドラマには似合っているような気がしていたから。
でも、葵ちゃんは見つかった。無事に生きたままで、特に暴行を加えられているわけでもなく、考えうる限り最も良い状態で見つかったと言っても過言ではない。すごくホッとする結末だった。これは物語だと分かっていても、やっぱり葵ちゃんが家族のもとへ帰れて本当に良かったと思うし、重たそうな扉から飛び出てきた葵ちゃんを見た瞬間のムロツヨシの演技、あれはあっぱれだね。極端に感情を昂らせることはなく、かといって淡々としているわけでもなく、絶妙な達成感と心の震えがにじみ出ている。2年間もかけて探し続けてきた少女と邂逅を果たしたときのリアルが、あのシーンには詰まっていた。
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