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夜更かしと朝寝坊、あたたかいカフェラテ、心にしみる映画が好き

私が『総理の夫』で描いてほしかった働き方の選択肢(ネタバレあり)

清く美しい中谷美紀を愛でる。その目的は十分に果たしてくれた映画『総理の夫』だけど、結局女性が妊娠出産しつつ仕事をこなすことへの難しさは残ったままだよなぁ~とぼんやり思ったり。

そこに対して明確な回答は得られずとも、何か取っかかりを提示してくれる映画なのかと思っていたので、その点は肩透かしを食らいました。

 

結局、総理大臣やめちゃうのねという現実感

ある意味リアルなのかもしれない。映画だからって無理やり万事うまくいくという意味でのハッピーエンドにしない。その姿勢は結構好き。

凛子(中谷美紀)が史上初の女性内閣総理大臣になり、選挙で改めてライバル政党に打ち勝ち、ここからさらなる飛躍のとき!というタイミングで妊娠発覚。しかも切迫流産(流産とついているけど赤ちゃんはまだお腹の中にいる、流産一歩手前の状態)で、赤ちゃんを守りたければ絶対安静が必要。このまま総理を続けるのか、それとも――という究極の選択を迫られ、凛子が最終的に下した判断は「辞職」。

映画だからこそ、映画なりの解決を期待していたのかもしれない

凛子が辞職してしまったとき、私は正直ガッカリした。ジェンダーをテーマにしていることは明白な映画だったから、現実ではなかなかどうにもならない女性の妊娠出産と仕事の両立についても、画期的な魅せ方をしてくれるんじゃないかと、心のどこかで期待していたんだろうね。

でもそこはあくまでも現実ベースで、飛び道具は出てこなかった。飛び道具が出たら出たで、「こんなの現実では無理だよ~」と言う人はたくさんいるだろう。でも、その上で「じゃあなんで現実では無理なんだっけ?」「現実でも可能にするためにはあと何が必要なんだっけ?」という議論を私はしたかったんだよ。そういう未来への布石のようなものが、この映画からはあまり感じられなかったように思う。

変わらない現実にぶち当たることもまた良し

ある意味この『総理の夫』は、物語というフィクションの中ですら解決できない現実を私たちに突き付けてくれる。それだけ考えるのが難しい問題であることを私たちに自覚させてくれる。

現実に即して考えたとき、凛子が辞職の決断をすることはとても自然なことだった。妊娠は病気ではないけど、仕事と両立する上では病気と同じくらいのハンデを背負うことになる。病気にかかれば仕事を休むのは当然のことなのに、妊娠は病気ではないからといって、通常運転を求め続けるのもまた違うと思う。

 

病気や妊娠に限らず、育児や介護がありフルタイムでバリバリ働くのが難しい人、もっと言えば副業や趣味の時間の確保をしたくて、そもそもフルタイムを希望していない人がいることは、社会ももっと認めるべきだよね。今だって時短勤務とか、正社員じゃなくて業務委託で働くとか、選択肢自体はあるように見えるけど、まだまだフルタイム正社員がステータスでキャリア上有利になっている現状はあるでしょう。

総理大臣はタフじゃないとダメなの?

たとえば、もし凛子が「時短・リモート総理大臣」みたいになれていたら? 切迫流産が落ち着くまで、基本はベッドの上でできる仕事の範囲で、外に出ていく必要がある仕事は他の人に代わりにやってもらうという体制が作れていたら?

総理大臣はタフでなければならない、ブラック企業顔負けで働かなければならない、なんて、そっちのほうがおかしいと言ってくれる映画だったら、私はさらにこの映画のことが好きになれたかもしれないな。

田中圭と中谷美紀の夫婦感はとても良かった◎

あとは、夫の日和くんを演じる田中圭と中谷美紀の夫婦の時間が、毎度毎度とても良かった。思わずにやけちゃう空気感。

凛子がね、いわゆる「強い女」として描かれていたのではなく、夫の前では可愛い妻であり、大衆の前でも品のある柔らかな女性に見えたのがまた良かった。社会で活躍する女=男勝りで鋼のスーツを着ているような女というステレオタイプには、もうとっくに飽きちゃったもんね。

個人的に大好きな俳優さんたちが夫婦役だったので、それだけでも楽しくほっこりしました。