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夜更かしと朝寝坊、あたたかいカフェラテ、心にしみる映画が好き

『水曜日が消えた』を観て私の消えない水曜日を想う(ネタバレあり)

明日も目が覚めたら自分でいられるって、私たちはどうしてこんなに無邪気に信じていられるんだろう。月曜日から日曜日まで1週間分の「僕」がいる主人公の生活は、ほのぼのしつつも切なかった。

 

1人7役の中村倫也をいつまででも観ていたい

この映画の主人公は「火曜日」。小さい頃交通事項に遭い、それ以来曜日ごとに7つの人格が入れ替わる生活を送っている。つまり、主演の中村倫也がすべての曜日を演じ分けているんだけど、これがとにかく良い。

物語はあくまでも火曜日の視点で進んでいくので、他の曜日の個性についてそこまで深く掘り下げられているわけではない。でも、分かりやすいようにキャラ付けされていて、どの曜日も愛おしい。個人的には優雅な文化人チックな木曜日と、ちょっとおバカキャラな感じの土曜日が特に好き。笑

火曜日は1番優等生タイプ

メインの火曜日の朝は、いつも前日の月曜日のタバコのにおいや散らかし放題の部屋に顔をしかめながら、そして月曜日がベッドに連れ込んだ女性や男性や道案内のフィギュア?に悲鳴をあげながら始まる(とてもかわいそう)その後も冷蔵庫の中で各曜日が放置している賞味期限切れの食材を使って朝ご飯を作り、指示のあやふやな付箋にブツブツ言いながら家事をこなしていく(とてもえらい)

この健気な火曜日の様子にまずハートをつかまれるよね。あと、そんな火曜日が生まれて初めて水曜日の朝を迎えた日。ずっと休館日で訪れることができなかった図書館についに足を踏み入れる。そのときの火曜日の無垢な喜びっぷりといったら! あれはずるいよね~~可愛すぎて胸キュンだよ。

その前のシーンで、友達の一ノ瀬(石橋菜津美)に「本なら水曜日に頼んで借りてもらえばいいじゃない」って言われたとき、「そうじゃないんだよ」ってちょっとふてくされてたけど、あれはほんと、そうじゃないんだよね。ただ図書館に行きたいだけなら、少し遠くまで足を伸ばして火曜日もやっている図書館に行けばいい。

そうじゃなくて、物心ついてからずっと火曜日しか過ごすことのできない閉塞感。他の曜日を生きることへの好奇心。そういった複雑な感情が一気に飛び出てお日さまの光を浴びてキラキラしてるような、素晴らしいシーンだった。

明日も自分でいられるってすごい

水曜日が淡い恋心を抱いていたであろう図書館の女の子(深川麻衣)に、火曜日もまたひと目惚れをする。その次の水曜日も、また次の水曜日も、連続して自分のままでいられることに明らかな高揚感を覚える火曜日。

私にとって水曜日は当たり前に自分のもので、朝起きて自分だったからって小さくガッツポーズしたりしないし、あんなに目を輝かせることもない。でもこの映画を観ていると、実は昨日も今日も何の疑いもなく自分でいられるって、すごいことなのかもしれないなぁとしみじみした。

よく考えたら、眠るという行為はちょっと怖い。当たり前のようにずっとある意識が途切れるわけだもんね。その後どうなるかなんて、誰が保証してくれているわけでもない。それなのに私たちは毎日たやすく眠ってしまう。明日も当然自分が続いていくものだと信じて。

火曜日にとって、それは水曜日の居場所を奪うことだった

ずっと7人の中の1人として生きてきた火曜日にとって、自分が水曜日も過ごしてしまうことは、本来そこにいるはずの水曜日の居場所を奪うことだという思いがだんだん芽生えてくる。ここが本当にえらいなと思うんだけど、恋心を寄せている女の子と積み上げてきた時間も水曜日のものだから、水曜日に返してあげなくちゃと考える。

でも、そんな思いとは裏腹に、ついに木曜日まで自分のままで過ごすことになってしまう。そして現れる月曜日の思惑。月曜日は日・土・金をすでに自分のものにしていて、ちょうど木曜日のところで火曜日と意識がぶつかり合うことになった。その後、一旦は月曜日の意識で「僕」が統一されてしまうけれど、一ノ瀬との会話を通して、月曜日もまたかつてのように7人で一緒に生きていくことを希望する。

エンディングの付箋トークがまた可愛い

物語の中で、各曜日は他の曜日との会話に付箋を使っている。その演出がエンディングにも登場していて、曜日たちの一致団結感とか、なんだかんだ言って仲の良い感じを垣間見れてとてもほっこり。

あと、今人格がいくつあるのかの暗喩に使われていた、割れた車のサイドミラーに映る鳥の数もノスタルジックでなんか良かったな。映像が全体的にキレイめで、ところどころファンタジックだったので、本来重たくなりがちなシーンもあまり心を痛めずに観ることができた。

ストーリーも監督のオリジナルだと聞いて、光るセンスに脱帽です。